まどろみと


失うのは一瞬。
通り過ぎるのも一瞬。

昔年を思い耽るも浮かぶは後悔と反省ばかり。
柔らかい陽に背を押されまどろみに逃げ込む。

・・・

影はもうずいぶんと長く細くなっていて、
夜の訪れを知らせる虫の音が突き刺さる。
母の手に引かれ友達は帰っていった。
私はもう少し、大丈夫。
ないものが輝いて見えるのは人の性なのか、
こどもは本能からかそれを初めから知っている。
あの子は私がぶら下げている鍵を欲しがったけど、
私はあの暖かさが知りたかった。
本当に暖かいのかどうかも知らないから、知りたかった。

二つ並んだ細長の影は私を世界から押し出して、
それが向こうに消えるまで私はただ眺めていた。
いつも最後にあの子は振り返り手を振ってくれる。
私はその時の顔がとても嫌いだった。
違う。嘘。あの子の顔が嫌いなんじゃない。
精一杯の笑顔でそれに応える私が、嫌いだった。
きっと絶対に、酷い顔をしていたと思うから。

・・・

まどろみとすっかり冷めた珈琲の香りの中、
一瞬で失って一瞬で通り過ぎていった過去は、
今も私の胸の奥の方で、ジクジクと乾かないまま眠ろうとしないでいる。

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